<11> #15

2009-03-14 13:05:02

「事実上の強制」を認めた画期的な判決 その2(自治会裁判とPTA(4))

テーマ:PTA

<逆転判決のポイント>
一審では認められなかった一部住民の主張がなぜ認められるようになったのか?
ここにも法技術的な難しい理屈はないように思う。
あるのは、極めてシンプルな価値判断の転換のように思われる。
それは、一言で言えば、
「『みんな』の論理」が制限され、個人の自由が尊重されるようになった
ということだ。

一審と二審の判断を分かつのは、要するに、思想信条の自由の侵害を認めるか否かであった。
一審では、「自治会の決定は思想信条の自由を侵害している」との原告の主張は「理由がない」として捨てられ、自治会の決定は「必要性と合理性がある」ものとして認められたのだった。
では、二審ではなぜ思想信条の自由の侵害が認定されたのか?
そこには、二つのポイントがあると思う。
一つは、「『みんな』のため」という錦の御旗の論理に一定の制限が加えられた点。
以下の判決文に注目されたい。
*****
募金及び寄付金に応じるか否か、どのような団体等又は使途について応じるかは、各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり、仮にこれを受ける団体が公共的なものであっても、これに応じない会員がいることは当然考えられるから、会員の募金及び寄付金に対する態度、決定は十分に尊重されなければならない。(P.7~8)
*****
また、「班長や組長の集金の負担の解消」は、上乗せ徴収を正当化するものにはならないとも明言されている。(P.7)
一審では認められた「『みんな』の論理」が通らなくなっているわけである。

そして、もう一つのポイントは、「退会の自由の制限」が建前ではなく「事実のレベル」で認定された点だ。(前回紹介した「判決の論拠2」参照。)
「会の決定に不服なら退会すればいいだけ」という言い分に対しては、住民にとっての自治会の存在(「日常生活を送る上において欠かせない存在」)に配慮することで、退会の自由が実質的に制限されていることが認定されているのだ。
これが認定されたおかげで、「嫌なら退会すればいいだけ」という反論が通らなくなった。
そしてこの点が認められたおかげで、「事実上の強制」が認定され、逆転判決に至った。
一審では省みられなかった個人の自由が大幅に認められたわけである。


<PTA問題を考える上での判決の意義>
Ⅰ 「みんな」の論理の制限
この判決は、
①たとえ一定の公益性が認められたとしても、
②たとえ一定の必要性(役員の負担軽減)があったとしても、
③たとえみんなで話し合って総会等で決めたことであっても、
個人の意思決定の権利(思想信条の自由)を侵すことは許されないことを示したという意味で画期的なものだと思うのだ。

①学校のため・子どものため・地域のためなのだ
②選出役員等の大きな負担を軽減するためなのだ
③総会なり委員会でみんなで話し合って決まったことなのだ
これらの三つの言い分は、PTAでの役職の無理強いをいわば正当化する上で、たびたび使われているロジックと言っていいだろう。しかし、それらのロジックは、個人の自己決定権を侵すことを決して正当化できるものではないことが、今回の判決で明らかにされたといっていいだろう。

Ⅱ 人権の尊重
先に見たように、判決では、その地域の大部分の人が会員であることや、退会するとゴミだしや市の配布物の受け取りに不便が生じかねないこと等から、「退会の自由が事実上制限されている」と認定した。
考え方によれば、「ゴミは自分でゴミ処理場に持っていけばいいし、市の広報とて自分でとりに行けばいいだけ」という言い分が成り立つ。事実、このような主張は、自治会に入って当然と言う立場の人がよく言うことである。

以前現役のヒラ役員のとき、運営委員会で、役職の無理強いやそれに伴うプライバシーの開示強制を問題にしたところ、「無理強いと言っても網走に強制送還されるわけでもなし、プライバシーの開示強制と言うがみんなの前で素っ裸にされるわけでもない」という驚くべき反論が会長から帰ってきたことがある。(まあ口が滑ってしまったのだとは思うが、それにしても…。)
また、2ちゃんねるの違法スレで、役の無理強いは人権侵害だと主張したところ、「監禁したり、暴力に訴えて強制すれば違法であろうが、くじ等で押し付けるくらいでは違法とはならない」と、やけに法律に詳しい人から言われたこともある。確か、断わろうと思えば断われるのだから、「強制」にはならないという言い分だったと思う。

しかし、それを言うなら、今回の自治会のケースとて、自治会をやめればそれで意に染まぬ寄付をすることから逃れられるわけだ。ゴミだしの問題も、役所からの文書の配布も何とかしようとすれば何とかすることは可能である。命をとられるわけでも、体を傷つけられるわけでもない。しかし、裁判所は、住民の快適に暮らす権利に十分な配慮を示したのだ。

判断の水準が、「素っ裸にされるわけでも体を傷つけられるわけでも,ましてや命をとられるわけでもないのだから」といった水準ではなく、人間らしく安心して暮らせる事に十分に配慮したものであることがすばらしいと思う。

(おわり)









1 ■PTAも、みんなちがってみんないい。
活動してもいいし、しなくてもいい。
役員になってもいいし、退会してもいい。
(文科省に相談してもいいし、ネットで告発してもいい)

  ↑
こういうのを「思想信条の自由」って言うのかな…?

2 ■大作ですね!
ゆっくり読んで、またコメントしに伺います…。
3 ■とても分かりやすいまとめをありがとうございました。
 いろいろと考えさせられる内容でした。

1.自治会も、特にうちの方みたいな田舎では厳しい状況が見え始めています。ゴミ収集場所の管理を担う人がどんどん減ってしまって、2~3軒でまわしているところもあるそうです。それならいっそ個別収集して欲しいです。

2.PTA強制加入問題・役職の無理強い問題は裁判にならないのは何故なんだろう?子供一人当たり9年間(小・中)我慢すればいいと思ってしまうからか? 余裕の無い人が特に辛い状態になるため、裁判を起こしにくいのか? そういう層は私立に流れるのか?

3.自治会の運営も、PTAもしくは保護者の団体も、行政の不足分を補わせるという側面を持っているため、結束を崩したくないという行政の意思が見え隠れしていないだろうか?→一審の判決。

などなど。まとまってませんが、今後もいろいろと考えて行きたいです!

4 ■とまてさんへ。
>PTA強制加入問題・役職の無理強い問題は裁判にならないのは何故なんだろう?

…??
子どもが人質になってるからじゃないのかな…。

5 ■Re:とまてさんへ。
>家内さん
 そ…そうですね。確かに、その条件で8割くらいの保護者は怯みそう。学校とPTA癒着してますもの。特に、中学受験を考えている小学生の保護者とか、高校受験を控えている中学生の保護者は考えちゃいますね。
 人権問題を温存する人の方が、学校の平和を守るように見えるわけですね(溜息)。
6 ■う~ん…。
あと…、
子どもの年齢とかも関係する気がするけどな。

自分の場合、子どもが低学年だったら
絶対にPTAの批判はしなかったと思うなぁ…。

7 ■早速のコメント、ありがとうございます。
とまてさん
早速の励ましと、コメント、ありがとうございます!
1について
>それならいっそ個別収集して欲しいです。
ちなみに、うちの地域は個別収集です。
全国的に広がるといいなと思っています。
ゴミ問題があるがために自治会に入らざるをえなくなっている人、多いと思います。

2について
子どもを人質にとられているという側面もあると思いますが、お世話になっている学校(先生)や、子どものお友達の親御さんを訴えるというのは、なかなか難しいですよね。

3について
これも重要な問題ですね。
3のご指摘と関係すると思うのですが、今、「お上意識」ということを考えています。

では、では。
また何かお気づきの点がありましたら、ご指摘よろしくお願いいたします。

8 ■とまてさんへ。 (補足)
なので…、
PTAの改革は自分の子どものことを一番に考えて
「できる人ができることを」すればいいんじゃないかなぁ…。 
(よくわかんないけど)

9 ■PTAの改革は…
 総会で発言してもシカトされちゃったので(奈良だけに鹿頭)、誰か司法の力でネコの首に鈴つけてくれたらイイナーと思ったのです(笑)。

 1000万人の保護者の中には、弁護士や検事なども含まれている訳ですよね?訴訟慣れしていらっしゃる方々ですから、『訴訟を起こしたことによって子供に不利益が及ぶならそれも訴訟の対象にするぞ!』みたいな力を持っている人がいらっしゃるような気がするのです。でも、もしかするとそういう家庭のお子様方は私立小・中なのかしらん?とも。

 ブログを書く方々が増えて、「やってみたら意外に楽しかった」以外の意見・感想が目に付くようになって、4年前よりもホンの少し議論が温まった感じはしています。以前は検索していて寂しかったですから。今後とも、よろしくです。

10 ■ですからぁ…。
甲賀市自治会裁判の判例はPTA問題にも適用できる、
というのが今回の記事の趣旨なんじゃないのかな。

もうすでに、
ネコの首には鈴がつけられている、ってことだよね…。

11 ■無題
家内さんへ
>甲賀市自治会裁判の判例はPTA問題にも適用できる、というのが今回の記事の趣旨なんじゃないのかな。
それは確かにそうだけど、「ネコの首に鈴がつけられているかどうか」は、例え話だから、何とも言えないと思いますよ。
「実際に裁判が行われ、勝訴してみて、はじめて鈴をつけることになる」という話は十分に筋が通っていると思います。
この話は、これまでにしましょう。

12 ■失礼しました…。
今、2ちゃんねるにアクセスできなくなっていて(3/3~)、
ついつい、こちらにたくさん書き込んでしまいました。
以後、気をつけます…。 (ぺこり)

13 ■こんにちは。
自分のブログに
関連した記事を書きました。
良かったら見に来てね…。

14 ■「しつこい勧誘」と「くじ・ポイント制」の違い
「役職の無理強い」という場合、
「しつこい勧誘」と「くじ引き・ポイント制」は
別にに扱ったほうがいいのでは…。

「自己責任」なのか「法令違反」なのか、
という線引きにつながるような…。


ブログにも書き加えました。
  ↓

15 ■Re:「しつこい勧誘」と「くじ・ポイント制」の違い
>里山たぬ子さん
「しつこい勧誘」と「くじ・ポイント制」は、ワイもしっかり線引きすべきだと思うよ。
なぜなら、通常、「くじ・ポイント制」はどうしようもない強制力を持つから。

「しつこい勧誘」までなら、おやじさんの言う「きっかけづくり」として「あり」かなと思う。
(もちろん、これだって度が過ぎれば、ハラスメント。)
しかし、有無を言わせず会に巻き込み、有無を言わせず役職を押し付ける(くじ・ポイント制)のは、
一線を越えている。
公職にある人が、こういうものまでも「きっかけづくり」だと、もし言のうなら、訴えられても仕方ないんじゃないかな(゜.゜)。