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2012-07-16 23:09:32

『学校納入金等取扱マニュアル』を読む(上) ― PTA会費の支払いを「親の務め」とする発想

テーマ:PTA問題の実際的解決をめざして
学校教育に要するお金のうち、どの部分は公費で賄われ、どの部分は私費で負担されることになるのか。その線引きの問題を考える材料として、宮崎市教育委員会発行の『学校納入金等取扱マニュアル』を取り上げる。

このマニュアルは、平成23年4月に、「保護者の期待と信頼に応えるべく適正な事務処理に努めることにより、会計処理における事故防止や事務処理の負担軽減、さらには保護者負担の軽減等につなげて」(p.1)行くことを目的に作成されたものである。
ここでは、その問題部分について批判的に検討していきたい。

なお、先日、『学校納入金等取扱マニュアル』の担当課である宮崎市教育委員会 企画総務課の担当者氏に当方の疑問の概略をお伝えした。
その時に得られた情報についてもかいつまんで紹介していきます。


<「学校納入金」とは>
「1 はじめに」の部分で、教育長のことばとして、「学校納入金」に関する総括的な説明がなされている。

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学校納入金は、教育活動において必要となる経費の内で、保護者が、学校教育の充実・発展を願い、受益者負担の考え方に基づいて負担している経費です。(p.1)
+++++++++

ここに出てくる「保護者が受益者負担の考え方に基づいて負担している経費」とはどのようなものか。
「宮崎市立学校納入金等取扱要綱」(平成23年4月1日制定)においては、「学校納入金」について次のように定められている。

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「第2条(1)学校納入金 受益者負担の原則に基づき、校長が教育活動に必要な実費を設定する会計」で、「児童生徒が個人用として使用する各種ドリルや指定ノート、宿題プリントなどの教材費、給食費の他、学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする。」(p.49)
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ここでは「学校納入金」に関して「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする」との限定が行われていることに注目しておきたい。

「学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」とはどのようなものなのかについては、マニュアルのp.3で具体的な説明が行われており(←分かりやすいです)、p.6~7にかけては、「原則として、次のものを個人負担とし、これ以外のものについては公費負担とします」との但し書きのもと、個人負担になるものが2種5類に整理されリストアップされている。
ざっと見たところ、そこに挙げられているものは「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」という定義に合致し、納得のいくものである。

ここまでの整理を行うと、次のようになる。

原則、学校教育に関わるお金は公費により賄われる。
しかし、「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」に関しては、受益者負担の原則に基づき保護者個々が負担する。



<「学校納入金」としてのPTA会費>
ここまでに紹介してきた「学校納入金」のあり方については多くの人の納得いくものであろう。
しかし、ここで問題になってくるのが「PTA会費」の扱いである。
宮崎市のマニュアルでは、「PTA会費」を「学校納入金」の一種と位置づけているのだ。
このことは、(あらかじめ結論的なことを述べれば)PTA会費を「受益者負担の観点から保護者が負担すべき経費」として扱ってしまっていることを意味し、看過し難い。


具体的に見ていこう。
マニュアルには、「2 学校納入金等の考え方」というパートがあり、次のようなことが述べられている(p.2)。

++++++++
 学校における教育活動費の中で、学校施設設備に関する維持費や整備費、学校管理上で発生する義務的経費、また、教科指導等に伴い必要となる経費などは、基本的に公費で負担すべきものと定められています。
 
 一方、児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する私費があります。
 
 学校における教育活動費は、税金などの収入により賄われる「公費」、児童・生徒の保護者等が個人負担する「私費」に区分され、私費の中に、「学校納入金」及び教育活動を遂行するうえで密接な関係を有する団体による「団体会計」があります。
(色付け、まるお)
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(まるお注:「団体」には、PTA、学校後援会、○○周年事業等実行委員会が想定されている。)

第二段落において「私費」を「児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する」ものと位置付けたうえで、第三段落でその私費のひとつに「団体会計」があるとしている。
 つまり、宮崎市教委は「団体会計」を「保護者が受益者負担の考え方に基づき、負担する必要のある実費」と位置づけていることになる。
(そして、狭義の「学校納入金」と「団体会計」を合わせて「学校納入金等」としている。)

先に見たような、児童生徒に具体的・直接的に還元されるものを「私費」負担とすることには問題はないと言っていいが、ここでは、「団体会計」までが保護者が負担すべき「私費」に組み入れられている点に注目しておきたい。

別の個所でも、「学校納入金等は、受益者負担の原則から、児童・生徒個人に還元できるものでなければなりません。」(p.4)などとも述べられており、宮崎市教委が「団体会計」の支払いを「受益者負担の原則」が適用されるもの、つまりは「親の務め」という観点でとらえようとしていることが見て取れるのである。


「PTA会費の支払い」=「親の務め」

とする発想は、「PTAに入らない親(PTA会費を払わない親)は負担するべきものを負担しないフリーライダー(ただ乗り人)だ」とする一部の保護者の間に根強く見られる誤った見方と軌を一にするものである。
『学校納入金等取扱マニュアル』における「団体会計」の位置付けは早急に是正される必要があると考える。





1 ■毎年なら予算化できないのか、と疑問です
まるおさま
こんにちは。
改めて、宮崎市教育委員会発行の『学校納入金等取扱マニュアル』を拝見してみました。

以前まるおさんに拙ブログにコメントいただいた時、卒業証書入れを公費で買ってもらえるようになった、と私が答えてましたが、間違いだったようです。
教育委員会(総務課)の人がおっしゃるには、
「毎年、児童数に比例してどこの学校も同じ金額を補助しているので、費目が学校ごとに何にいくらという風に表示の仕方が変わるだけで保護者としての負担金額はどこの学校も同じ」
と言われました。つまり、卒業式で証書入れを公費で出した分、別の場所で保護者負担が発生している、と言われました。証書入れというものが判断しにくいものなのかもしれません。つまり、あってもなくてもいいものなので、会費を集めて運営しているPTA
から出すという方が別に公費を回せる、と考える学校もある、ということなのかもしれません。役員をやっていた時に他校の入学式、卒業式に出席する機会がありましたが、学校によってPTAからの贈り物が違っておりました。
宮崎市の例でも、学校行事に関わるものは公費となってますが、あってもなくてもいい、と判断されるかもしれない卒業証書入れは公費なんでしょうか、とふと、気になりました。

 しかし、毎年、当たり前のように卒業証書入れを渡しているのであれば、どこも公費にしたらいいのに、と思います。
 うやうやしく義務教育機関で
「PTAの皆さんから、卒業生の皆さんへ贈呈です」
と言って渡す必要があるのかなと思います。

本当は公費でも私費でも大した値段ではないのでいいのですが、これがあるために、PTAが全員加入していないと困るなどと言われる揉める原因になっているのが嫌ですね。
長文失礼しました。

2 ■Re:毎年なら予算化できないのか、と疑問です(まるお)
>柳下玲優さん
>本当は公費でも私費でも大した値段ではないのでいいのですが、これがあるために、PTAが全員加入していないと困るなどと言われる揉める原因になっているのが嫌ですね。

PTAの会費問題を考える時は、ご指摘の観点が大切だと私も思います。
報道や文科省の通知から、この観点が抜け落ちていることが残念です。

>教育委員会(総務課)の人がおっしゃるには、
「毎年、児童数に比例してどこの学校も同じ金額を補助しているので、費目が学校ごとに何にいくらという風に表示の仕方が変わるだけで保護者としての負担金額はどこの学校も同じ」
と言われました。つまり、卒業式で証書入れを公費で出した分、別の場所で保護者負担が発生している、と言われました。

御地教委が言っていることが呑み込めないでいます。
「卒業式で証書入れを公費で出した分、別の場所で保護者負担が発生している」とのことですが、「別の場所での保護者負担」って例えばどのようなものなのでしょうね?
(ちなみに、当地教委ではホルダー代として予算が付いているとのことです。
http://ameblo.jp/maruo-jp/entry-10318088542.html)

3 ■re:教育費国庫負担金と自由度
>まるおさん

お返事をいただきありがとうございます。

学校での徴収金のことで学校から説明された時のことを思い出しますと、
修学旅行保護者負担金、課題チェックシールの代金、音楽鑑賞会費用、計算漢字ドリルの代金の合計が例えば、
年間13,230円になった場合、
「自治体からの補助を3,230円当てますので、徴収金は1万円になります」というような説明をされてプリントも渡されました。卒業証書入れや、卒業式のお花代金は明細に書かれていません。
 お花代金は必要最低限ということで学校行事として公費で予算化されているのですが(これは役員を引き受けた年度に、今までより卒業式の予算が減らされたので保護者の会から出していたお花代金を今までは『○千円だったところを○万円に変更になりました』と引き継ぎをされました。これは、『あくまでの保護者からそうしたいというお祝いの気もちとしてやっている』という説明でした。金額変更に関してアンケートを書かされた記憶はありませんので、役員会で決まったのだと思います。

気がつけばそうなっていたということです。
 やはり、役員をやるまでこういったことに関心がなかったので学校の予算の建て方はどうなっているのかしら、と最近興味があります。

教育費の国庫負担金との関連で、地方自治体によって自由度があるのかもしれないですね。まだ勉強不足でよくわからいのですが。


4 ■やはり、公費の額が決まっていて、年度に違い
>まるおさん

もう一度、しっかり確認してみました。
すると、私費負担は漢字ドリルやワークと言われているもの、漢字練習ノート、図工教材費、社会科資料集などでした。それぞれ個別に金額が書かれている用紙を学校からいただいたのが見つかりました。
 しかし、公費でも、本来私費にもなりえる?と思われる作文ノート、計算ドリル、社会ワークというものが、『公費で購入となります』ので集金はいたしません、
と書かれていました。
 つまり、公費の額は予め決まっていて、組み合わせが年度によって違うのかもしれません。(ということを総務課の方もおっしゃっておりました)学校によって卒業証書入れがPTAからの贈呈になったり、『教育委員会から』の贈呈になったりするのだと見受けられました。
 この、ある学校の卒業式に出席した時のことを思い出し、
「あの時の説明、卒業証書入れの筒が『教育委員会から』と言われていたのは、教育委員会にも、『保護者と教師の会』などの会があって会費を集めたところから出していただいたのですか?それとも臨時で寄付を教育委員の人から集めてそのお金でお祝いとして卒業証書入れを買っていただいたのですか?それとも自治体からの公費(つまり税金)ですか?」
と教育総務課の方に聞きました。これは今年になってから聞きました。(数年前にもPTAからと贈呈されていた時もありましたので、筒は公費にならないのですか?と聞いたことがあります。)

 すると、自治体の税金です。
とおっしゃいました。
『ならば、初めから○○区から、とか、○市から贈呈です、とおっしゃればいいのに』
と思いました。
 なぜにここに拘るかと申しますと、やはり、私の住む地域では、PTAの加入にあたり、本人の意思確認をするという発想がいまだにないので全員加入しないと『PTAのただ乗り論』が出てくるからです。
 私の地域では、改善にはしばらく時間がかかりそうです。
長文失礼しました。

5 ■Re:やはり、公費の額が決まっていて、年度に違い
>柳下玲優さん
全国的に私費負担とされるドリル、ワークの類が、一部とは言え公費で負担されているのですね。ちょっと驚いています。

そんな財政上の余裕があるのなら、おっしゃるように、「ただ乗り論」が出ないようにするためにも、卒業証書のホルダーの方をきちんと公費で賄うべきだと思います。
ホルダーや筒は、公的性質を持つ卒業証書と一体のものというか、「付属」するものとも言えるのですから。

それにしましても、今回教えていただいた、各家庭への「補助金」というものが"あり"なのか、どの程度の"広がり"を持つものなのか都道府県教委や文科省に聞いてみたい気がしています。