<39> #4

2009-09-02 20:40:25

私と「だから」との出会い

テーマ:日本語
(この記事を読んでいただく前にブログ「はじめに」を見ていただけるとありがたいです。)

浪人中の年末か年始の頃だったように思う。視聴者参加のクイズ番組を見ていた。司会の文珍さんだったかが、解答者の若い女性に
「なんで、そういうふうに答えたの?」
と答えの理由を尋ねた。すると、その女性が

「だからぁ、○○××だから、~~。」

というように答えたのだ。わたしは「えっ?」と思った。「どうしていきなり『だから』なんだ?」と。
「【前】に何もないではないか?」と。
  
わたしがそのような疑問を持ったのは、予備校の現代国語の授業で、
「接続詞は文章を読み進む上での道標のようなものだから、接続詞に注目することで、文章の流れ、筆者の『言わんとすること』が理解しやすくなる。」
と、接続詞の重要性についてちょうど教わったところだったからだと思う。

「しかし」があれば、その前後の部分には対立的な内容が書かれているはずだ。
「ところで」「さて」とあれば、そこで話しの流れが変わる。
「つまり」「すなわち」とあれば、その前後には同じ趣旨の内容が述べられている。
「だから」とあれば、それまでの説明を理由として受け、その後には結論が述べられる。
等々。

言ってみれば、その時、文章には「ストラクチャー」と言うのだろうか、「構造」があるということをわかりやすく教わったのだと、今にして思う。山崎正和や小林秀雄や丸山真男などの評論をそうやって教わった。とても楽しい思い出である。(代ゼミの名古屋校での話。)

話を元に戻す。
このようにして、予備校の授業で接続詞について学んでいたおかげで、私は解答者の若い女性の使った「だから」に違和感を覚えたわけだが、その時は、浪人の分際(?)で、「ことばをあまり知らない若い人の誤用なのかな?」程度に思い、それ以上掘り下げることもなく、「だから」のことはどこかに行っていた。
  
その数ヵ月後、どうにかこうにか浪人生活にピリオドを打つことができたわたしは、「国語国文学会」という大仰な名前の学生サークルの中古部会(源氏物語や伊勢物語などの中古文学を研究する部会)に入った。(ちなみに、今のツレは、その部会の後輩です^_^;)

その部会では、毎週土曜日の放課後部員が集まり、前期は「伊勢物語」を読むことになっていた。そこではじめて知ったのは、古典のある部分の解釈は実は一義的に定まっているものではなく、多様な解釈が可能だというものだった。

「ああでもない、こうでもない」という先輩達の議論は、当時のわたしにとっては、山崎正和や小林秀雄の評論と同じくらいか、それ以上に難解なものだった。そこで、私は予備校で教わったことを思い出し、接続詞に注目して先輩達の「言わんとすること」を理解しようとした。

その時、思いもかけず再会したのがクイズ番組の解答者の女性が使っていたあの「だから」だった。先輩たちはしきりに【前】のない「だから」を使っていたのだ。

もう具体的な内容はよく覚えていないのだが、確か次のようなものだった。

(1)「だからさぁ、それはね、なんと言ったらいいのかな、そのさあ、このエピソードで何を作者が言いたかったのかを考えればね~」

(2)「だからぁ、それは、君にはこの前も行ったけどさ、そもそも古典というのはさ~」


先輩達が何度も何度も使う「だから」を聞いているうちに、これは「ことばを知らない若い人の誤用」などと言って済ませられるようなものではないのではないか? と私は思うようになった。
  
手近にある国語辞典を見ても何の説明もされていない。詳しい説明を求めて図書館に行き、いくつかの専門書や辞典類を見てみたが、問題の「だから」を説明しているものはひとつもなかった。「だから」に関しては、何を見ても、細かな説明は違え、「原因と結果」や「理由と帰結」等の因果的関係を表示する順接の接続詞とされているだけだった。
  
今から振り返ってみるならば、私はその時、日本及び日本人におけるセルフイメージと実態(無意識)の亀裂を垣間見たのだと思っている。

次回は、問題の「だから」の用法について、具体的に見て行きたいと思っています。





1 ■続きを楽しみにしております
日本語シリーズ開始ですね!

なにを隠そう、娘の通う都内某区は「日本語特区」の位置づけにあり、独自の『日本語』という教科書をもっています。去年は小1で漢詩をそらんじてました。(その割にライターに書かせたらしき地域の民話が、公明党区議員の名で載っていますが!!(爆)!)ご興味あれば、世教委へお問い合わせください。1冊500円で手に入るそうです。学年により、何種類かあるようです。

2 ■Re:続きを楽しみにしております
>猫紫紺さん
コメント、ありがとうございます!
ぼちぼちやっていきますので、どうか忌憚のないご意見をくださいませ。
どうもこのあたりがよ~分からん、という突っ込み、大歓迎であります。
それに答えられるかどうかは、ともかくといたしまして^_^;

「日本語特区」についての情報も、ありがとうございます。

3 ■だから…
 日本語カテゴリー、遂にスタートですね。
 話し言葉は相手の顔が見えるからまだしもなんですが、書き言葉が、ちゃんと理解できる文章になっているかどうか、というのがいつも気になってます。展開、楽しみにしています!

4 ■Re:だから…
>とまてさん
コメント、ありがとうございます。
とまてさんには、ブログの開設、とある場所での「日本語論」の連載(その新装開店版がこのシリーズです)等、背中を押していただいたり、手をとり足を取っていただいたり、ほんとうにありがとうございます。

今回は、前回のように尻切れで終わることはなしにきりのいいところまで話を持っていければと思っております。(皮算用としては、年末までを一区切りにできればなと思っています^_^;)
テーマは、大風呂敷を広げますが、「日本語の特質及び、その関連で探る日本人の特質」です。

私の関心は話しことばに集中する嫌いがありましたが、確かに、話しことばに「問題」があるとするなら、その「問題」性は、書きことばにも「反映」されるはずですね。
いいヒントをいただけました。
ありがとうございます。